イタリア料理店でメニューを開くと、真っ先にパスタの項を見る。
なぜなら、パスタにこそシェフの思惑が出ると考えるからだ。
この店でも同じようにメニューを眺めていると、ストリーニという見知らぬパスタ名が、さあ食べろと誘いかけてきた。
聞けば、伸ばした生地を細く丸めてカットした、シェフ創作のショートパスタだという。
さっそく頼めば、ふっくらと太って噛み応えのあるジューシーなムール貝と、ストリーニのむっちりとした食感がぴたりと重なり、笑い出したくなるようなおいしさであった。
このように倉谷シェフの料理は、当意即妙に食いしん坊欲をくすぐる、痛快な料理だ。
くじらの香りと鉄分、チーズのコク、アボカドの食感が見事に手をつないだ前菜、あるいは力が漲る野菜を魚介類と合わせた料理、赤ワインの風味が染みた滋味に富む牛タンなど、魚から攻めようが肉から攻めようが、心弾むひと時を与えてくれる。
あとは豊富に揃えられたフランスワインをマネージャーと相談して選び、充足感に加速をつけるだけである。